理論と背景

「音楽を描く」の背景にある理論・理念

「音楽を描く」は、音楽のプロセスと個人の体験を結ぶ(音楽プロセス体験・utena method)という理念をベースに持っています。
音楽を「できる」ことを目的とするまえに、いかにその経過を実体験と結びつけていくか、
その具体的な方法を模索していくのが”音楽プロセス体験”です。
これはutena music fieldの基本的な考え方でもあります。

「音楽を描く」ことをとおして、この講座では、基礎からもう一度、自分を見つめながら自分の力で音楽を育てていくためのお手伝いをします。テンポが走る、音程感覚か育たない、などといった それぞれの人たちが抱えている悩みの多くは、本人の問題だけでなく、これまでの教育が「体験すること」をあまり大切に扱ってこなかったことの現れでもあるとutena では捉えています。このワークを通して改めて、自分の音楽を掴み直し、初めて音楽に触れたころの、幼子の、思春期の、あの感動へもう一度もどって、音楽生活に新しい息吹を吹き込むことができるかもしれません。

また、普段音楽にふれるときふと感じている様々な体感的な違和感、実はその違和感と向き合っていくことが、新しい体験への扉となります。その扉は本人でなければだれもあけることができません。でも、utena musicは、そのお手伝いのできることに喜びを感じています。なぜならその場でいま、その人がいて初めて生みだす音楽はなにものにもかえがたい感動を持ってきてくれるからです。


レッスンの現場で

「音楽プロセス体験」の要になるスケッチを使ったやりとりは、もとも音楽教室にピアノを習いに来る生徒さんとの間で生まれたものです。今では子どもだけでなく、大人の方にも有用であると認められ、大人むけのレッスンやワークショップも行っています。ごく普通の個人ピアノ教室と同じように 私の教室でも、生徒さんが小さい頃から通ってきて、長期的にレッスンしています。
ただ、私が思い悩んでしまったのは、一般的に「ピアノが弾けるようになる」ということがピアノ教室の目的となっていることに対してでした。そうは言っても、みんながスラスラと楽しく弾けるものではなく、理想と現実の間には個々人の持っている違いがありました。本当に「ピアノ弾けるようになる」ことがピアノ教室の目的なのだろうか、何かもっと大切なことを見落としているのではないだろうか、という思いがあり、私は、演奏以前のその人の「体験」がどうなのか、ということを模索し始めました。
その経過のなか、生まれてきたのがこの音楽をスケッチする、という手法なのです。

心と身体がなじむ

一般的には、レッスンに通わせてすぐ見える形としてピアノが弾けるようになることが喜ばれるのですが、私たち音楽を学んできた立場からいえば、そのピアノを弾く、という行為は、そう単純ではないのです。
場合によっては、音楽に親しむ心がなくても、弾けてしまうということもあります。また、音楽を楽しく体験したいという思いがありながら、不器用な身体であったり、家庭環境の中に音楽に触れる機会がなく、経験がなかったりして、どう接していいか分からない、ということも起こりがちです。

詳しいことは分かりませんが、こうしたことは、身体が体験することと、心(感覚)が体験することの、微妙なずれがあるような気がします。身体だけが動いていても心が付いていっていないとか、心はあっても身体が追いつかない、というような・・・

毎日のレッスンの中で、どうやったら生徒に直接音楽に触れさせることができるだろうかということを模索する中、言葉で伝えられないものを、線で描いて見せたり、実際にそれを一緒に描いたりするうちに、このワークは自然発生的に生まれてきたものです。そして、やっているうちに、子どもたちの体感が変わっていくのがわかり、私自身もまた、変化を感じました。そして、このワークは上に書いたような、身体の体験と、耳から入るこころ(感覚)の体験を一致させる、という役目を負って生まれてきたものなのかもしれないと思うようになりました。

身体の体験、つまりクレヨンを持って描いていく行為と、それを音楽とともに追っていく心の体験が一致するとき、何かが起こるようです。
生徒たちは大きな喜びを持ってこの体験を繰り返し要求するようになりました。そしてその繰り返しによって、音楽に入り込んで味わうことを覚え、私の想像を超えて、実際の演奏にも大きな影響を与えることが分かってきました。

また、他の先生によって、高齢者の方や幼児さんなど、音楽業界という枠を超えたところで試していただいています。それは、音楽教育のみならず、もっと広く深いものを持っているのかもしれない、そういう可能性も感じさせてくれます。

情報としてのスケッチ

描かれたスケッチから、普段表に現れないたくさんの情報を読み取ることができます。
その情報を読み取ろうとする行為は指導者にとっても自分自身の音楽性に影響を与えるのです。
そこから自分自身の音楽もまた、より深い呼吸を求めるようになります。

内面の旅

レッスンの現場で自然発生的に生まれてきたワークですが、それだけでなく、それまでに私の内面の旅を通して堆積してきたものたちがあります。勿論自分自身の音楽体験とともに、かつて一度火事で持っているものをすべてなくしてしまった時の音楽に対する信頼の体験、子育て中のジレンマ、他者との距離感にたいする苦しさなど。そうしたものは場面は違えど誰にでも何がしかありながら、また私だけの体験でもあります。そこでえてきた感情や思いの数々が作用していることは間違いありません。

加えて、私には常にひとつの問いが頭から離れませんでした。

「音楽ってなんだろう」という問いです。

私が音楽をする意味、と言い換えてもいいかもしれません。
問いが問いを産み、その問いに促され、芸術療法の講座や、箱庭療法の実体験、そしてオイリュトミーという舞踏芸術に出会ったことと、そこからたもとを分かち、自分自身の問いへと向かいざるを得なかったことなど、間違いなくそれらは背景にあり、生徒との交流のなかで必要に迫られて、今この生徒に何ができるだろうという問いから生まれてきたものなのです。


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