中村雄二郎氏の残したもの

今朝の新聞で、哲学者中村雄二郎さんの訃報を知った。
新聞を見ていた夫が何気なく 「共通感覚論・・・」とつぶやいていたので、
もしかして、中村雄二郎さん亡くなったの?と尋ねると、そうだ、という。
夫がそれをつぶやいたのは、 その題名が何となくわたしのやっていることに近いのかなと思ったのかもしれない。

そのとおりで、この本は自分にとって、そして、私のしごとにとって、必要不可欠な本。

「共通感覚論」は、感覚として別次元のものを同質に感じるような共感覚のようなものを病理からではなく、人の原体験”センスス コムーニス”から捉えたもので、それは、西洋の叡智の中に綿々と語られ続けてきたものだった、ということを私に教えてくれた。

センスス・コムーニス(共通感覚)は例えば、
「その考えは甘い」みたいな、感覚器官としては質の違うものが1人の人の中で重なること。そしてそれが人の間でも共通のものとなること。
あるいは、身体で隔たれた人と人の間に共有するものを感じ取ること、それは「常識」と訳されるけれども、元はこの共通感覚のことだった。
そして、共通感覚は 良識を自分の内側から感じ取るもの。それも感覚なんだということ。

今思い出して、そんな感じ事を書いていたなと思う。(ちゃんと読み直したわけではありませんので、あまりにアバウトな説明になっていると思います。)

話は変わるけれども、数日前、ばったり40年ぶりに小・中学校の同級生に出会った。
彼女は私を「自然児」だった、という。それはとってもありがたい受け止め方だったけれども、いやいや、周りが見えてない、感覚に振り回されるお馬鹿さんだったのだ。
世界があまりに私を魅了するので、大概の日常のことは上の空。
どこまでが心の言葉なのかどこからが実際に自分が発していることばなのか、よくわかっておらず、とにかく、混乱していた。
たいがい迷惑もかけたんじゃないかと思う。
その溢れてしまう感覚の過剰は、まあ、そんなやつだったからいじめにもあって、思春期から大人にかけて、逆にひどく自分を閉ざす原因になった。とにかくコントロールの難しい自分を持て余していた。必死でいい子でいようとした。

この本に出会ったのは、40台始めくらいかな。
まだそんな自分がくすぶりつつ、まあ、思春期よりはもう少しましになっていたかもしれない。

それでもまだまだ若くて、尖っていて、「良識なんてお仕着せ」なんて斜めに構えていた私に、広く深い視点と、優しい眼差しと、深い思考の末の論理で、根気強く私を諭してくれたのだった。
今は、思う。良識、というのは自分の中からそだてるものなのだということを。
それは、嗅覚や聴覚や、それをイメージする力とともにに自然に備わっていくものなのだと言うことを。
それは正義ではなく、一般的に言われる外から押し付けられる社会的常識でもなく、空気を読む云々でもなく、感覚の一つなのだ。良識の基準は外にはなく、自分のうちにある。いや、それを基準とはいわないかもしれないな。

(さて、と再び現代に戻り・・)その、40年ぶりに出会った彼女とは、ベンチに座って長いこと話した。
彼女はすぐに私のことをわかったと言っていたけれども、私は実はすぐにはわからなかった。なんといっても上の空だったから、当時。でも話しながら、徐々に、馴染んできた感じはした。その声、話す速度、イントネーション、家に帰って夜になってからありありと、可愛くて大人びていた彼女とその人が間違いなく1人の人として重なった。いま思い出すと、そのベンチに座っていたのは、その時の中学生の彼女だったんじゃないかと思うくらい。それを思い出させたのは間違いなく声だった。声から、その容姿、仕草へと広がっていったのだ。これも共通感覚なのかのかな。おとなになって、話を聞かせてもらった、その彼女を俯瞰してみて、あのあころのその人の謎が溶けていく。パズルが埋められていく。素敵な体験だった。

長い人生の中で、人を知ることで、自分も救われる、そういう思いを私は時々させてもらえてきた、それは、この何かへとつながりたいと思う感覚のおかげなのか、と今は思う。ささやかだけれども、得難い体験が残っていく。

そうそう、思いがあちこちへ飛んでしまったけれど、中村雄二郎さん。
この本に出会うことによって、私は、混乱していた自分の落とし所を見つけることができた。
そうだ、そこを掘り下げなければ。
もう一度読み直します。
私になくてはならない本を送ってくれた人です。ご冥福をお祈りします。

共通感覚論 (岩波現代文庫―学術)
中村 雄二郎
岩波書店
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うちにある本はもう一冊。「精神のフーガ」こちらのほうが仕事に直結しているかも。内容は一貫して共通感覚論と同じ。ただ、歴史の中の時系列にそいながら、哲学と音楽の捉え方を通して語られるところが、より深められてよかった。

精神のフーガ―音楽の相のもとに
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