「音楽を描く」受講者の声

以前にも記事にさせていただいた、発展プログラムを受講された方にお寄せいただいた近況です。

「描く」は、描くことが目的ではない、じゃあなにが・・・ということをよく理解していただいてるのですね。
Kさんの学びの深さに驚きました。

ピアノ初心者にも、「描く」はとてもよいサポートになってくれると思いますよ。


2016年の春に、とある仕事が舞い込みました
知り合いの50代の男性から、1曲限定(弾き語り)で、4ヶ月後の結婚式で演奏できるように、とのレッスン依頼でした。
彼は今まで全く音楽をする環境になく、もちろんピアノ初心者。
そこで、手探りで週1回・1時間のレッスンを始めてみたところ、彼はたまたま 音楽の器、つまり音楽的能力をたくさん持ち合わせていて、初めから拍に安定感があったり、歌うことと弾く練習をすることが共存できたので助かりました。
とはいえ、本人の感覚からすると「まず白黒の鍵盤に目が慣れない」というところからのスタートでした。

引き受けた以上は、期限までになんとか人前で演奏できるようになってもらわなくては困るわけですが、その時「音楽を描く」の一連のプログラムを終了していた私は、「弾けることを目標にしない」という谷中さんの考え方を自分のベースに据え直していたので、弾けるまでの過程、特に本人の実感を共に観察することを第一に心掛けました。

気さくな性格の彼は、積極的に感想を言ってくれます。これがしっくりくるとかこないとか。指の感触や身体で受け取った感じとか。和音の響きを耳でどこまでも追いかけてみたり。
コード進行を覚えて、歌いながら2分音符と全音符の組み合わせで弾けるまでになった時、ゼロからよくぞここまで、と、お互いに達成感がありました。
そこで、録音して聞いてみることに。すると彼は、
「なんか、お通夜の読経の後ろで鉦が鳴っているような感じだ 笑」
「もっといい音色にならんかなあ・・・」

こんな調子で問いが問いを生み、楽しい時間になっていきました。ペダルも踏めるようになり、最後には前半のゆったりした部分に飾りの音を足したり、サビの右手を4分音符で刻んで仕上げました。

たった4ヶ月という制約の中で、ペダルを踏みながら弾き歌うための課題は山のようにあり、実際にクレヨンを持って書いてもらったり書いて見せたりする時間をとることは全くできませんでした。
ですので、それ以前に、彼の発する全てのことを注意深く観察することと、他の方法、言葉などで伝える努力をするしかありませんでした。

「音楽を描く」の考え方にいつも助けてもらいながらのレッスンでしたが、いっぱい良くない対応もし、その都度概論を読み直してひとり反省会をし次回に臨みました。
長年の癖・・・間違いを直そうとすることに神経が集中してしまうこと・・・などをレッスンの度に気づかされて、大事なのはそこではない!と。
この仕事は理論なしでは成り立ちませんでした。
こちらの視点と受け止め方と提示が変わると、さらに練習していく中で、相手の表情などから実感をつかんでいく様子が伺える瞬間が増えていきました。

もちろん、仕事でどんなに遅く帰宅しようとも、翌朝の出勤前の練習を欠かすことなくやり通した本人の頑張りがあってこそですが、こうして無事に息子さんの結婚式で念願のサプライズ演奏を果たすことができました。

この仕事を通して、概論のまえがきにもあるように、「新しいエンジンを投入するくらいの大変さ」を味わいました。そして、「たとえちゃんと弾けたとしても本人はどこか置いてきぼり」といったことのないように、「いまここの本人の体験とともに学習を進めることを前提とする」ことを、改めて今後の柱にしていこうと思いました。

普段は、4年から10年以上通われている70歳代の方が多い教室です。
発表会を中心に「弾けるように」を目標にしていた弊害が最近目につくようになり(私がやっと気が付くようになっただけの話ですが)、レッスンの中で十人十様のもっとていねいな対応が必要と感じています。

レッスンの中で私がよく間違えるのが、演奏から情報を読み取れずに、思い込みでひとつ上の階層を使ってしまうこと。本人の体感を置いてきぼりにした結果です。そんなときは後で「ピンとこない」と言われます。そこからまた観察です。

そうかと思うと、器用とは言えず思うようにならない手を嘆く生徒に、左手の広域の伴奏形を一緒に繰り返し描いてもらい、その後左手だけで弾いてもらったら、興奮した様子で、
「この曲が私のすぐそばにぐんと近づいてきた。今まではすごく遠くにあった!」
という表現をしてくれて嬉しかったこともありました。

このように、このワークはピンポイントで役に立つことも多く、慣れると便利なツールなのはわかってきましたが、その分余計に、独りよがりや分かったつもりにならないように気を付けなければなりません。それが一番怖いし、犠牲になるのは生徒ですので。
これからも迷ったらいつでも理論に立ち返り、謙虚な気持ちで取り組んでいきたいです。

 

〈長野/Kさん・ピアノ教師)

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